「名門アルピナ」はBMWと何が違う? 一番の魅力はコンパクト系!? 462馬力の“直列6気筒ターボ”を積む「B3ツーリング」に乗って考える

今の形態のアルピナは2025年12月31日で終了

 今から2年半前の2022年3月、BMWグループはアルピナブランドの商標権を取得すると発表しました。

 この合意により、これまでの関係性は2025年12月31日で終了。ただしアルピナというブランドは、2026年以降も「BMWの高級ブランドのひとつ」としてその名が継承される見込みです。

【画像】「えっ!…」やはりBMWとは違うね!! これがBMWアルピナの「B3ツーリング」です(30枚以上)

 このニュースに「純血のアルピナが消える」、「ブランドが継続しても似て非なるモノだ」などなど、どちらかというと否定的な意見が多いように感じます。

 しかし、筆者(山本シンヤ)はあまり心配していません。なぜなら、単にネーミングの活用だけではブランドなど維持できないことを、BMWグループ自身が最も理解しているからです。そのため、事業形態が変わっても、アルピナの名にふさわしいクルマづくりは必ず継承されると信じています。

 そんなアルピナを語る上で必ず出てくる話、それは、モノづくりに対する徹底したこだわりでしょう。さまざまな記事を見ると「ホワイトボディを寝かせて使う」、「精度高い部品を選別」、「似て非なる専用パーツの採用」といった“クラフトマンシップの極み”を示すような逸話がたくさん出てきますが、その多くは“都市伝説”級の話も。特にホワイトボディの話は「レーシングカー以外ではやったことはない」とアルピナは断言しています。

 確かに、昔のアルピナはそうでしたが、現在はちょっと違います。実はイマドキのアルピナ車は、普通にBMWの工場のラインで組み立てられています(もちろんアルピナ専用工程もありますが)。さらに使用されるパーツ類も、BMWのさまざまなモデルのアイテムを上手に活用しながら、“キモ”となる部分のみ専用パーツが使われています。

 しかし、ステアリングを握ると、誰もが「おっ、やはりアルピナだよね!!」と感じられる“味”は今もしっかり実現できています。では「アルピナらしさ」とは、一体どこで再現されているのでしょうか?

 アルピナを採り上げる記事の多くは、1965年にアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限合資会社を設立し、当初はBMWのチューニングやレース活動をおこなっていたが、1978年からコンプリートカー販売を開始。1983年に自動車メーカーの認定を受ける……といった「歴史の話」から、試乗してみて「BMWとは別物だよね」という流れで終わってしまうケースが多いように感じます。

 今回、筆者はアルピナ「B3ツーリング」に長時間乗るチャンスを得たので、多方面からBMWアルピナというブランドを徹底分析してみることにしました。

「B3ツーリング」のベースはBMW「M340iツーリング」ですが、まずは走りに関する部分の変更点を見ていきましょう。

 エンジンは、BMW「M3」や「M4」に積まれるS58型の直列6気筒ターボユニットをベースに、ターボチャージャーを変更。それに合わせて、アルピナ製のインテークマニホールド、エアクリーナーボックス、エキゾーストシステムに変更されています。

 トランスミッションが8速AT(ZF製8HP)なのはベース車と変わりませんが、実はBMWのV8/V12エンジン搭載車が使用する高トルク型をベースに、アルピナ独自の強化品を搭載。駆動系はフロントデフにBMW「M5」(F90)用、ドライブシャフトにアルピナ専用強化品を採用しています。

 フットワークはどうでしょう? 前後スプリング、フロントスタビライザーをアルピナ独自のアイバッハ製に変更。ただし、ダンパーはベースのBMW車と変わらず、です。

 タイヤはピレリ「P-ZERO」ですが、ウエットグリップに留意するためにトレッドパターン、コンパウンド、ラジアルのプライなどを専用設計したアルピナ専用品。当然、アルミホイールも専用品(オプションの鍛造20インチ)で、BMW標準の19インチよりトータルで13.7kg軽量な設計となっています。

 ブレーキは、BMWの「M760i」用をベースに、ブレーキブースターにはBMW「320i」用を活用(オプションでフローティング構造&ドリルドローターを用意)しています。

 このように、ハードの変更は皆さんが想像しているよりも少ないように感じますが、実はキモは目に見えない部分……つまりソフトウェアにあります。

 エンジンマネージメント、トランスミッションプログラム、4輪駆動制御プログラム、電子制御サスペンションダンピングプログラム、電子制御LSDプログラム、電動パワーステアリングプログラム、ABSプログラム、DSCプログラムはすべて、アルピナ独自のものとなっています。

 このようにBMWアルピナのクルマづくりは「パーツを変える」ことが前提ではなく、アルピナの乗り味を創るために「必要なら変える」ことを重視しているわけです。つまり、「目的」と「手段」がはっきりしているのです。

 これは筆者の推測ですが、昔のBMW車のパーツ精度や組み立て品質だと、アルピナが求める乗り味を実現できないことから、スペシャルなパーツ、特別な製造工程が用いられていたのでしょう。逆をいえば、現在のBMW車はその辺りがクリアできているわけです。

●「B3ツーリング」で感じた3つの「あれっ」

 ここからは、気になるその走りについて見ていきましょう。

 感情論でいうと「乗らなきゃよかった」となります。なぜなら「本当に欲しくなってしまってしまったから」です。

 一方、論理的に見ると「高性能なのは当たり前」、「速さと快適性の完璧なバランス」、「最強のロードカー」、「BMWに最も近い存在だが俯瞰して見ている」といった印象を受けました。

 ということで、それぞれをもう少し具体的に見ていきましょう。

 エクステリアは、横メッシュから縦バーに変更されたキドニーグリル、アルピナ伝統のアルミホイール、そしてフロントスポイラー(実はBMWの「Mスポーツ」用)とベースモデルからの変更部位はわずかですが、ボディサイドの「アルピナセット」も相まって、明らかに普通のBMWではない“オーラ”を感じます。

 ちなみにフロントウインドウ上部にある“突起”はサンルーフ装着車のみに装着されるもので、300km/hレベルでのサンルーフの“吸い出し”防止用。もちろん、空力特性を改善させる効果もあるといいます

 インテリアは、アルピナ専用メーターグラフィック(ブルー基調)やスターターボタンの照明変更(オレンジからブルーに)、専用ラヴァリナレザー巻きのステアリング&シート(オプション)などが異なります。細かい部分ですが、シフトレバー回りのパネルもマットブラックからハイグロスブラックに変更されています。

 そんなBMWアルピナ「B3ツーリング」のシートに座ってみて、「あれっ⁉」と感じました。

 おそらくシートの骨格自体はBMWと同じですが、レザーの伸縮性の違いなのか(試乗車のシート表皮はオプションのラヴァリナレザーではなく、BMWインデビデュアルで採用されるメリノレザー。ノーマルのヴァーネスカレザーよりやわらかい)、明らかにBMWよりもクッションが厚く、かつ少しやわらかい印象なのです。

 ステアリングの触感も素晴らしい! のひと言ですが、ひとつだけ惜しいのはスポークが太めなこと。個人的には、トヨタ「GRスープラ」に採用された細みのステアリングの方がマッチしている気がしました。

 走り始めると、さらに「あれっ」と感じます。

 まずはパワートレイン。「B3」シリーズ用のエンジンは、最高出力462ps/5500~7000rpm、最大トルク700Nm/2500~4500rpmを発生します。BMW「M3」「M4」のそれと比べてトルク重視の設定ですが、アクセルペダルをドンと踏み込めば、スポーツユニットらしい強烈なパフォーマンスを発生します。

 特に秀逸なのは過渡領域。アクセル開度に合わせて忠実に反応する応答性、ターボモデルなのに大排気量自然吸気エンジンのようなシームレスな盛り上がり、そして、明らかに抵抗感がない回転フィールなど、“野性味”ではなく“スマート”な印象が強いです。

 さらに、ATがいい仕事をしています。ZF製の8HPはデュアルクラッチ式トランスミッションに負けない電光石火のシフトスピードと、トルコン式らしからぬダイレクト感が大きな特徴ですが、それらを捨て(といっても、ごくわずかですが)、スムーズさとシフト感を感じさせない味つけとなっています。

 さらにアクセルペダルをグッと踏み込んでもむやみにシフトダウンせず、エンジンを信じてグーっとトルクを活かした加速を味わえるシフトスケジュールも、まさに「お見事!!」という印象です。

 ちなみに、BMWアルピナ各車にはドライビングモードが用意されていますが、これに関しても、BMW版には設定のある「ECOプロ」はがアルピナでは「コンフォートプラス」に変更されるなど、独自制御となっています。ちなみに「B3ツーリング」の「スポーツプラス」はやる気全開モードですが、それでもシームレスな特性は変わることはありません。

 フットワークも同様に「あれっ」と感じます。

 ステア系はBMW特有の鋭い初期応答とは別物で、操作しただけ自然にかつ素直に動く印象です。それも、まるでベアリングの精度を変えたかのような抵抗感のないスムーズなフィール。ただそれだけではなく、タイヤの状況がより的確かつ濃厚に伝わってきます。

「B3ツーリング」は旋回時、かつてのアルピナ車より姿勢変化は抑えられているものの、ある程度ロールします。とはいえ、少ないロール量ながらもロールスピードがゆっくりかつ繊細にコントロールされているので、サスペンションが上手に沈み込みながら曲がっていく様子が的確に伝わってきます。

 それでいながら、一体感やコントロール性、そしてタイヤの接地性が増しているのです。結果、街乗り領域ではBMW「3シリーズ」のベーシックモデルのようなスッキリ感、ワインディングでは同「M3」「M4」級の旋回性能を発揮しながら、それらをひけらかさない“したたか”なハンドリング、そして高速道路ではBMW「5シリーズ」を超えるどっしり感が共存しているのです。

同乗者にGを感じさせない“大人のブレーキング”も可能

「B3ツーリング」の走りは、絶対的なパフォーマンスとして見るとものすごく高いレベルにありますが、乗っている限り、いい意味でスポーツ一辺倒ではありません。

 例えが正しいかは分かりませんが、アドレナリンが湧くようなワクワク感ではなく、むしろより冷静にクルマと向き合えることに対し、うま味を感じるハンドリング、という印象。すべてに雑味がない上に、人によらず、路面を選ばず、環境を問わない懐の深さを具現した、まさに理想形と呼べる仕上がりです。

 乗り心地は、20インチタイヤを装着していることを忘れるくらいのしなやかな足さばき、とにかくカドが立ってない路面からの入力の伝わり方、人間の波長に合った減衰のさせ方(少しだけ時間をかけて収束する)などにより、快適性はすこぶるハイレベルです。

 もちろん、かつてのアルピナと比べるとソリッドな感じは強いかもしれませんが、この辺りはエンジンパフォーマンス向上に合わせた最適化だと考えれば納得できるレベルでしょう。

 ちなみに「B3ツーリング」の乗りは、ドライビングモードによって特性が変わりますが、乗り比べて分かったのは、ボディコントロールと入力に対する収束の時間が異なるくらいで、実は足のセットアップは基本的にはひとつだけということ。速度域や用途に合わせ、塩コショウの振り方をアジャストしているだけだと分析しています。

 この辺りはサスペンションチューニングのみならず、AWD制御(BMW「M340i」よりリア寄りなものの、「M3」「M4」よりもトラクション重視)、ボディ(変更アナウンスはないものの組みつけ順序などの違い、もしかしたら別の車種用を用いて力を抜く工夫をしているのかも⁉)、ホイール、ブッシュなど、総合的なバランスによって成り立っているのでしょう。

 ちなみにブレーキは、絶対的な制動力が申し分ないことはもちろんのこと、それよりもスポーツブレーキであることを感じさせないやわらかなタッチと、よりミリ単位の繊細な操作が可能なコントロール性の高さに驚かされます。これなら同乗者にGを感じさせない“大人のブレーキング”を、誰でも簡単におこなえると思います。

●アルピナの真髄はハードではなくソフトにある

 そろそろ結論にいきましょう。

 総じていうと、当然、「B3ツーリング」はアクセルペダルを踏めばハイパフォーマンスなのですが、それよりもゆっくり走っている際の心地よさや気持ちよさが格段に高いレベルにあります。要するに、「駆け抜ける喜び」だけでなく「駆け抜けない喜び」も身につけているのがBMWアルピナなのです。

 加えて、ゆっくり走っているときと飛ばしているときとのドライブフィールにズレがないので、常に冷静でいられるのもBMWアルピナの美点です。

 ちなみに、高速道路やワインディングでたまにBMWアルピナ車を見かけますが、そのほとんどはジェントルに走っています、目を三角にして飛ばさなくてもクルマのうま味が十分に感じられるのと、常に冷静な気持ちでステアリングを握れることから、「ドライバーの心にも余裕があるんだろうな」と思います。

 冒頭、筆者は「事業形態が変わってもアルピナの名にふさわしいクルマづくりは必ず継承される」と書きましたが、その意味をお分かりいただけたでしょうか?

 アルピナの真髄はハードではなくソフトにある、つまり「ブレない味つけ」にこそあると筆者は考えます。

 アルピナが目指す走りとは、より速く、より快適に、より遠くに、より安全に、より愉しく……を実用域から超高速域までハイレベルで実現させる「究極のグランドツアラー」だと思います。

 その実現のための手段が、BMWのリソースの上手な活用であり、「どうしてもこれは!!」という部分にのみ、独自のアイテムを投入しているのです。ちなみにアルピナがBMWのアイテムを使う理由は、認証の取りやすさや信頼性が高いから、だそうです。

 アルピナはBMWを最もよく知る「目利き」であると同時に、そのパーツを自由自在に活用することで、秘められた潜在能力を引き出すことができる敏腕シェフといえると思います。

 今回は「B3ツーリング」を例にレポートしましたが、他のアルピナ車が必ずしも同じ変更点、パーツ、手法を採用しているわけではありません。どうやら素材に対して、それぞれ最適な調理方法がアルピナにはあるようなのです。

 ひとつ心配事があるとすれば、「ブレない味つけ」を元にアルピナを生み出してきたシェフたちが、2025年以降の“新生アルピナ“にどのようなカタチで関わるのか……ということでしょう。

 現時点ではその辺りのことは全く分かりませんが、BMWもアルピナというブランドを引き継ぐ上で、ちゃんと理解していると信じています。

 そしてもうひとつの心配は、BMWグループ内での新生アルピナのポジショニングです。BMWは「自社のラグジュアリーカーをより多様なものとする」と語っているので、おそらくアルピナはBMWとロールスロイスの間に位置することになると思いますが、「高級ブランド=大型モデル」が主流となるのは、個人的にがイヤだな……と思います。

 アルピナにもBMWの大型車をベースとするモデルが存在しますが、やはり真髄は「3シリーズ」「4シリーズ」をベースとするコンパクトなモデルでしょう。この辺りについて、BMWグループがどのようなかじ取りをしていくのか? 個人的にも非常に気になる部分ですが、数年後も「相変わらず、アルピナは違うよね!!」といった記事を書けるといいな……と思います。

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