かつてはプリウスよりも売れてたのに! ハイブリッド専用のコンパクトカー[アクア]はなぜそれほど売れなくなったのか?

 初代アクアは、プリウスやN-BOXを抜いて年間販売台数1位に輝いたこともあったが、現行の2代目アクアはその5分の1ほどに減少してしまった。なぜアクアは売れなくなってしまったのか、その理由を考察する。

文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部、トヨタ

■初代アクアはベストセラー車だったのだが…

たしかに現行アクアがデビューした時はデザインにインパクトがなかったため、それほど大きな話題にはならなかったが……

 最近はSUVの売れ行きが増えているが、コンパクトカーも依然として好調だ。販売ランキングの上位には、トヨタヤリス、日産ノート&ノートオーラ、販売を再開したトヨタルーミーなどが入る。

 このなかで順位を大きく落としたコンパクトカーがトヨタアクアだ。先代の初代アクアは2011年12月26日に発売され、2013年は、当時販売が絶好調だった3代目トヨタプリウスや初代ホンダN-BOXを抜いて国内販売の総合1位になった。同年の1か月平均登録台数は2万1860台に達していた。

 2014年は先代ダイハツタントに抜かれたが、小型/普通車の1位は守った。そして2015年には、再び国内販売の総合1位になっている。この年の1か月平均登録台数は1万7960台であった。

2011年12月にデビューした先代アクア

 ところが2代目の現行アクアは、2021年7月に発売され、発売直後となる2022年の1か月平均登録台数は約6000台だ。2023年は約6690台、2024年1~7月の1か月平均は4870台に留まる。

 このように2代目アクアの2024年1~7月における登録台数は、初代の2013年に比べると、わずか22%と少ない。クルマの売れ行きは時間の経過に伴って下がるが、10年ほどの間に5分の1まで減ることは珍しい。

■2代目アクアはなぜ売れていないのか?

アクアのボディサイズは全長4050×全幅1695×全高1485~1505mmと、ヤリスの全長3950×全幅1695×全高1495mmよりひと回り小さい

 なぜ2代目アクアは初代に比べて売れ行きを大幅に下げたのか。この背景にはハイブリッドを取り巻く市場環境の変化がある。

 初代アクアの販売が好調だった2013年当時は、5ナンバーサイズに収まるコンパクトなハイブリッド車は少数であった。トヨタであれば、カローラアクシオ&フィールダーにハイブリッドが加わったのは2013年8月で、ヴィッツやシエンタには設定されていなかった。

 ちなみにハイブリッドシステムは1997年に初代プリウスが初採用したから、2013年には16年を経過していたが、搭載車種はミドルサイズ以上が中心だった。そのために2011年に「200万円以下で買える本格的なフルハイブリッド」として登場した初代アクアはインパクトが強く、一躍ヒット作になった。

 初代アクアはコンパクトでもハイブリッド専用車だから、遠方から見ても、ノーマルガソリンエンジン車とは区別される。そのために一般ユーザーに加えて、環境対応に力を入れる姿勢を示したい企業の社用車としても注目された。レンタカーにも積極的に採用され、好調な売れ行きに結び付いた。

 しかし今は、トヨタのコンパクトなハイブリッド車も増えた。売れ筋SUVのライズ、ヤリスクロス、カローラクロスでもハイブリッドを選べる。ノア&ヴォクシーなどのミドルサイズも含めて、大半の売れ筋トヨタ車にハイブリッドが用意され、わざわざハイブリッド専用車のアクアを選ぶ必要性は薄れた。

G(2WD)、(内装色 : ブラック)。ヤリスより1クラス上の質感

 つまりかつてアクアに集まっていたコンパクトなハイブリッドに対するニーズは、今ではさまざまなトヨタ車のハイブリッドグレードに分散された。同様の理由で、近年ではプリウスの販売も減少しており、現行型は外観をスポーティに変更して動力性能も高めるなどの個性化を図っている。

 またアクアは2011年12月に登場した時から、トヨタのすべての販売店で購入できた。ヴィッツハイブリッドはネッツ店、カローラのハイブリッドはカローラ店の専売だったが、アクアは全店が売るために、取り扱い店舗数もヴィッツの約3倍、カローラ店の4倍であった。

 この充実した販売網もアクアの売れ行きを押し上げたが、2020年からは、すべてのトヨタ車をトヨタの全店で買える体制に変わっている。そのために販売網におけるアクアの優位性も薄れた。

 このような事情により、2016年のアクアの売れ行きは、前年に比べて22%減った。2017年も同様にマイナス22%、2018年は4%、2019年は18%という具合に、ほかの車種のハイブリッドが充実する代わりにアクアの売れ行きは減少している。これに伴って販売ランキングの順位も下がっていった。

■ハイブリッド車のなかでは売れている

トヨタアクアは214万6000~276万3000円

 ただしハイブリッド車に限定した販売ランキングを算出すると、アクアの順位は決して低くない。例えば車名別販売ランキングでは、ヤリスとカローラが1位と2位を争うが、両車とも複数のボディタイプを合計したシリーズ全体の台数だ。ボディを区分して、さらにハイブリッド車のみになると、台数はかなり下がる。

 直近となる2024年7月にトヨタのコンパクトなハイブリッドで好調に販売された車種は、シエンタハイブリッドが9100台、カローラクロスハイブリッドは7170台、ヤリスハイブリッドは4900台であった。アクアは6298台だから、ヤリスハイブリッドを上まわった。

 他社のコンパクトハイブリッドは、日産のノートとノートオーラが多いが、それぞれ約4500台だからアクアの方が多い。このようにアクアは、以前よりは売れ行きが下がったが、ハイブリッドに限れば依然として堅調だ。

 そこでアクアの売れ行きについて販売店に尋ねると以下のように返答された。

 「10年ほど前までは、ハイブリッドを初めて購入するお客様が多く、5ナンバーサイズの先代アクアが好調に売れた。それが今は、ハイブリッドの優先順位が下がっている。まずは車種を決めて、次にハイブリッドかガソリンかを選択するお客様が多い。ハイブリッドへのこだわりが薄れると、アクアの売れ行きも下がる」。

 しかしそれでも、アクアはコンパクトなハイブリッドとしては人気が根強い。その理由は何か。「先代アクアは販売が好調で、現行型へ乗り替えるお客様も多い。ボディはヤリスハイブリッドよりも少し大きく、後席の足元空間も広いため、ファミリーカーや社用車として使いやすいメリットもある」。

 アクアZの価格は256万5000円で、ヤリスハイブリッドZの249万6000円に比べると高いが、アクアは販売店の指摘通り後席が広い。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)が50mm長く、後席の足元空間を拡大できた。

アクアのインテリア、G(2WD)(内装色:ブラック)

 身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は、ヤリスハイブリッドは握りコブシ1つ少々だがアクアでは2つ弱になる。4名で乗車する時の快適性はアクアが勝る。インパネの周辺などの内装もアクアが上質だ。

 さらにアクアはバイポーラ型ニッケル水素電池を使う効果もあり、ヤリスハイブリッドに比べて動力性能が少し上まわる。ホイールベースが長いこともあり、乗り心地も快適だ。

 つまりハイブリッドならアクアの推奨度が高く、ヤリスは価格の割安なノーマルエンジンの搭載にメリットがある。

 その一方でヤリスハイブリッドはボディが軽く、アクアよりも燃費性能が優れ、加速にも軽快感が伴う。今は同じトヨタの販売店で購入できるから、両車を乗り比べて判断すると良いだろう。

【画像ギャラリー】プリウスよりも売れていたアクアが売れなくなった理由とは?(6枚)

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